原発停止では停電が起きる確率は高いと思う

松宮 湊人

2012年05月15日 14:00

(2012.6.28. 修正・加筆)
2012年も5月に入り、ついに原発が稼働ゼロとなりました。
反原発・脱原発の方々にとっては、当然のことと思っているかも知れません。

ただ、私のような現実主義の人間から言わせてもらえば、今の綱渡りの電力供給から見たら、ゆゆしき状態だと言えます。
たぶんこのまま原発稼働ゼロでいくと、そこそこ高い確率で停電(または計画停電)がやってくると私は予想しています。


反原発・脱原発を訴えている方達は、節電とピークシフトでなんとかなると言っています。
原発無しでもこの夏は乗り切れる、やり過ごせる、と。
確かに去年並みの夏の暑さで、節電とピークシフトを徹底できたなら、十分やり過ごせると思います。
でもこれ、残念ながら足りるか足りないかの安直な計算でしか語られていません。
(電力が足りないといってる人たちも、単純な足し算でしか語っていませんが)
そこに落し穴があると思うのです。

確かに、原発を除いても徹底した節電と火力、水力など他の発電所をフルに稼働させてやれば、夏の電力は足りるでしょう。
しかし、フルに稼働させなくてはならない、と言うところが問題点です。

何度も言ってきましたが、現在電力を支えている主力は、火力発電所です。
昨年の原発事故以来、火力発電はまさに24時間フル稼働し続けています。
ガンガン化石燃料を燃やして、どんどんと二酸化炭素を大気に放出しています。
(いい加減マスコミはこの事実に正面から触れて欲しい。地球温暖化の問題は二の次で良いのか?)
本来、火力発電所もフルに稼働し続けることはありません。
必ず一年に一回は定期点検をして、施設や機能に異常がないかチェックしなくてはならないのです。
しかし、昨年原発事故以来、あまり点検は行われていません。
原発で作っていた全電力約3割の電力が、原発稼働停止でなくなってしまったので、当然供給量はぎりぎりです。
どこかの火力発電所を休ませて点検…なんてことができる余裕がないほど、供給量はひっ迫しています。
よって多くの火力発電所は、点検ができないまま、現在まで一年以上稼働し続けているのです。
発電所によっては、すでに二年も連続稼働し続けているところもあります。

これが意味するところは何か?
点検がろくにできていない火力発電所は、いつか何かしらのトラブルで停止してしまうかもしれない、ということです。
何度も言ってきましたが、電力供給はすでにぎりぎりの綱渡り状態。
火力発電所がひとつ止まっただけでも、電力が不足し停電になる確率も高い。
最悪、もし真夏のピーク時にどこかの火力発電所が止まってしまったら、、、恐怖の大停電の発生というのも十分に考えられます。


一番考えられるのは、関西電力管内の停電です。
関電は原発依存度が高く、稼働ゼロとなった今、すでに自前の発電所では電気が足りない状態になっています。
今も比較的余裕のある中部電力や中国電力などから、電力を融通してもらい、供給量を保っています。
この夏は、そうやって他の電力会社から電力を融通してもらったうえ、なおかつ節電とピークシフトをこれでもかと徹底して、なんとか乗り切れる…くらいの状況です。

でも上で言ったとおり、トラブルで火力発電所の停止によっては、停電が起きる可能性は高い。
また他に考えられるケースは、融通してもらっている他の電力会社で火力発電所が止まった場合です。
例えば中部電力はもともと原発依存が低く火力発電に頼っていたため、原発が止まっても電力に余裕があり、関電へは今も約100万kwhを融通しています。
当然その分は、関電が今夏を乗り切るための電力供給量の計算にも、加えられています。
もし真夏に、中電の火力発電所が何かのトラブルで停止したらどうなるか。
すると中電管内への供給に余裕がなくなり、関電への融通量を減らさざるをえない状況になるかも知れません。
そうして融通量を減らされて、関電管内は電力不足となり、停電が起きる可能性があります。
そこを考えると、関電へ融通する中部電力、北陸電力、中国電力を含めた全体の供給状態が、停電をにぎる鍵になってくるのです。
自分の管内だけ見てれば良いという訳ではないので、これは結構やっかいなことだと思います。


また、火力発電が止まる原因のひとつに、中東イランの問題が考えられます。
中東イランの核開発疑惑の問題は、ホムルズ海峡封鎖を含めた石油輸入の問題とも絡んでいます。
もしイラン情勢が最悪の結果となり、中東からの石油がストップしてしまったら、、、当然火力発電にも影響してくるでしょう。
火力発電といっても、石油をはじめ、石炭、天然ガスなど、燃料にはいくつか種類があります。
石油による火力発電は、火力での発電量全体でいうと2割程度と多くはありません。
しかし、今まで言ってきたとおり電力は厳しい状況です。
使われなくなった古い火力発電所や、いわゆる直焚きといわれる原油をそのまま燃やす効率の悪い発電所も動かしています。
その石油による発電の2割が止まるだけでも、停電の可能性は大きくなるわけです。
欧州のイランへの本格的な制裁は7月に始まるそうです。
ちょうど夏の暑いころですねぇ、、。汗
そのころ何か動きが出るのか、国際情勢も注目していく必要もあるでしょう。



私は脱原発の立場ではありますが、やはり原発は拙速に止めるべきではないと考えています。
脱原発依存は、10年20年の長いスパンで行うべきです。
電力供給に不安がある中では、安全性を十分確保できたなら動かせる原発はなるべく稼働させる。
原発を稼働させながら、酷使している火力発電の点検をし、同時に自然エネルギー発電をはじめ電源(発電方法)の見直しを進めるべきです。


今回、関電大飯原発の再稼働をめぐっては、政府が原発稼働がゼロになるのを必要以上に恐れて、ばたばたとあわてて再稼働へ動いたのがまずかった。
原発再稼働は、電力不足の恐れがある7月くらいまでに間に合えば、十分だったはず。
それまでは、粛々と確実に再稼働へむけて準備していけば良かったのに、急に話を進めたら国民が不信感を覚えるのは当たり前です。
明らかに政府のミスです。
(これは黒幕の仙石さんのミスでしょう)

仮にもし私が電力について色々決められる立場だったら、原発の稼働が一時的にゼロになっても良いから、再稼働の準備はゆっくり確実に進めて行き、基本的に安全が十分確保できるまでは動かさない。
ただし、電力がどうしても不足しそうなときは、安全が十分でなくても稼動させます。
大規模停電は、国民の生命と財産が脅かされる可能性が、非常に大きい。
だから、電力が足りないときは、安全が十分でなくても躊躇せず原発を再稼働させます。
そのことはあらかじめ、国民にしっかり説明して理解を促しておくことは必要でしょう。
原発稼働ゼロで夏を乗り越えられたとしても、それはそれでOK。
でも、電力供給が綱渡り状態であることには変わらないので、安全性が十分に確認された原発はなるべく早く速やかに稼働させます。
原発を動かしながら、他の電源を模索して今後も進めていき、少しづつ原発依存から抜け出していく。
日本がとるべき道は、これしかないと私は思うんですが…。
とりあえずの目標は、原発稼動率を5〜10年で半分の15%、20年後にはできればゼロ、多くても5%くらいにする。
原発を減らした分は、水力、地熱、温水など、24時間発電できる電源を建設・研究・実用化させ、なんとか割り当てる。
そして、火力への依存率は増やすことなく逆に減らすよう、努力したいところです。
ま、これはあくまで私の勝手な考えですけど…。

あと国・政府も、国・政府としてのこういった電力のグランドデザインを早く提示するべきです。
グランドデザインをはっきり明示しないから、メディアや反原発の方々に必要以上につつかれるのだと思います。
ゆっくり会議で決めてないで、だいたいの数字でいいので政府のほうから早く出すべき、と考えます。



この夏も厳しい節電は避けられません。
特に関西電力では、停電対策を含めた複合的な対策が求められるでしょう。

そして私たちは、節電をしながら今後の「電気」をどうしていくべきか、深く考えていかなければなりません。
日本では、電気はあって当たり前、と言うくらい安定供給され続けていた国でした。
そのため、今の電力会社の独占状態が認められてきたし、原発もたくさん作られてきた。
そのありがたさとすごさを深く考えずとも、その電気の豊かさにどっぷりつかって享受してきた私たち国民は、今後の電力についてもっと真剣に考える義務があると思います。
原発事故を受けて、今後の電力は多少ではありますが、不安定な供給が続くはずだからです。
そのために、まずは原子力はじめ火力、水力、自然エネルギーなど色々な電源のメリット・デメリットを含めた最低限の知識を知っておかなくてはならないでしょう。
それがある程度理解できてから、どう組み合わせてどう発電していくのが良いか、という話にようやく進むことができると思うのです。
(私の電力と原発に関する考えは、過去のこちらの記事を参考にしてください(かなり長いです汗)→電力について考えてみる1~6)

「原発は危なくて怖いからダメ」「放射能が危険だからダメ」という原発事故の一面だけで、物事を考えるのはよくありません。
もっと多角的で客観的で科学的な思考が求められます。
マスメディアのように表面だけの情報でなく、でも反原発だけの情報ではなく、かといって原発推進派だけではない、いろいろな話・情報をあちこちから得て、自分の頭で考えてみる。
この記事も自分の考えをまとめるための、ひとつの情報として見ていただき、後でしっかり自分で考えてみてください。
そうした「自分の考え」をしっかり持っていることが大事です。
でもだからといって、その考えに固執し過ぎるのもいけません。
一度出した自分の考えでも、間違いがあったらその間違いを正して、変えられるくらいの柔軟さも必要です。(私自身が出来てるとは言えませんが…汗)


また話が長くなりました。(;^_^A
とにもかくにも、まずは電気について、いま一度しっかり考えてみましょう。
それが、はじめの一歩となるはずです。
m(_ _)m



(2012.6.4. 追記、2012.6.28.修正・加筆)
さて最近になって、関西圏の自治体が電力不足という現実の危機に折れる形で、関電大飯原発の再稼動が進んできています。
この調子で行けば、7月末くらいから再稼動が可能となり、とりあえずの停電の恐れはかなりなくなるでしょう。
しかし、停電回避のための原発再稼動は良いとは思うのですが、停電が起きそうでもそうでなくても、とにかく再稼動させるというのはどうなんでしょう?
もうちょっと原発稼動ゼロでどこまでやれるのか、様子を見ることは出来なかったのか?
そこが残念です。

さらにいただけないのは、相変わらず政府・国が具体的なグランドデザインを明示していないこと。
今後電力をどのようにして供給していくのか、仮でもいいからだいたいの数字を今すぐにでも出すべきだと思うのに、専門委員会だかなんだかでのんびり会議で決めている現状は、やっぱダメでしょう。
これは政治の責任として、政府・与党のおおまかな数字を早く出すべきなんですが、、。
(ま、現状はのらりくらりとやっていくのが政府の方針なんでしょうがね)
ほんとに残念でなりません。


(2018.9.12. 追記)
2018年9月6日未明の北海道胆振地方東部地震を受け、北海道電力の苫東厚真火力発電所の緊急停止により北電内供給バランスが崩れ、道域全体で大規模停電が起きました。それを踏まえてタイトルのせいでこの記事の閲覧が増えています。内容的には北海道の停電とあんまり関係ないので、申し訳ないと思う次第です。ただ改めて記事を読むと(自分で云うのもなんですが汗)決して的外れではない気もします。
結局、発電施設の分散とそのバランスが重要だったということです。苫東厚真発電所に供給を集中させすぎていたわけで、電力の安定供給よりも発電効率を求め、災害等で発電所が止まってしまった時を想定した対策が不十分だったわけです。しかし北電は正直企業的規模は大きくない方で、安定供給より効率を求めてしまったのは、昨今の電力自由化の動きや北電を取り巻く事情を想像すると仕方がなかったところもあると思います。それでも「電力」という重要なエネルギーの性格を考えると、災害時の危機管理はもっと色々想定して対策を講じておくべきだったでしょう。
同時に、同じような大規模停電は北電管内だけでなく、どこの管内でも起きる時は起きると認識しなくてはならないでしょう。例えば、いくつかの発電所が定期点検等でちょうど停止中だった時に、地震や台風などの自然災害、またはその他不測の事態によって別の発電所が緊急停止して供給不足になり大規模停電に陥る、ということは十分に考えられます。ましてや、昨今の自然災害の多さを考えるとその確率は上がってきているはずです。大規模停電は起きる時には起きるもの、と考えておかないといけないでしょう。
そのために、事前に停電への対策を考えておかなくてはならないと考えます。3~4日(できれば1週間)の停電でも最低限生活ができる対策は、停電のみならず他の防災面からも必要です。地震対策含めた食料・水・生活用品等の事前の備蓄。電力のいらないガスコンロ、ストーブや、非常用バッテリや発電機などを用意する。停電時はテレビや通信機器が使えなくなる可能性があり、情報が手に入らなくなるかもしれないので、電池で動く携帯ラジオは必須です。また停電時は上水道も止まる可能性も高いので(蛇口をひねって水が出るのは電動ポンプ等で水圧をかけてあるからです。電気が止まれば水も止まります)、お風呂の浴槽に水をためておくとか備蓄の水を多めに用意しておくなども必要でしょう。無駄な投資かもしれませんが、緊急時を考えてできる範囲で準備をしておくことは大切です。(北海道の地域コンビニであるセコマの事前の災害対策は個人も企業も見習うべきことだと思います。無駄に見えるけどしっかり災害対策をしていたことが、今回の停電で他のコンビニとの大きな差になったのです)
やはり原発のことを含めて、今後の電力のことについて、国民全体でもう一度しっかり考えてみる必要があるのだと、私は考えます。

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