地震を考える2013 その2

松宮 湊人

2013年03月26日 01:04

(2018.9.9. 加筆・修正)

(前回の続き)
津波の被害から身を守るには、警報が出たらとにかく高台などの避難場所へと早く逃げること、です。
身の回りのものだけ、できれば事前に非常持出袋をしっかり用意しておき、身動きしやすい物だけ持ってすぐに逃げます。
そのためには、津波の時の避難所や避難場所(高台やビル)を、ハザードマップなどで平時から確認しておきましょう。
特に、津波の時の避難所と、その他の災害の時の避難所が違う場合があります。
震災の時、津波避難所ではないいつも使っている公民館などへ避難した人も多くいて、そのうちほとんどの人が被害に遭いました。
その辺りをしっかり事前に確認しておくことは、とても重要です。



さて、東日本大震災ではとんでもない被害を与えた、大津波が主に注目を集めました。
しかし、その他にも地震により甚大な被害を及ぼす事象が起きていました。
内陸であるここ信州では、これらの被害を頭に入れ考えておくべきだと思います。


まずは液状化の被害。
これは海や川、湖を埋め立てた埋立地、三角州や扇状地、後背湿地や地下水が豊富な土地、昔は川が流れてた土地、谷や沢があったところを盛り土して平坦にした土地など、砂が多くて土壌に水分を多く含んだ土地で起きます。
震動により土壌に含まれる水分が動いて流動化し、土地がすごく軟弱になるので、地面が歪んだり上にのっている重たい建築物が沈んだり傾いたりします。
輸送を支える道路をはじめ、地中に埋設した水道、ガス、電気、電話などのライフラインの多くがダメになる可能性もあります。
東日本大震災では、東京や千葉、宮城の埋立地などで液状化が起き、特に千葉では大規模な液状化が起きて大きな被害がでました。
千葉の閑静な埋立て住宅街全体が液状化し、建物自体は何ともないのに基礎から傾いてしまい修復しようがない住宅や、マンホールが浮き上がって地面から突き出したり、東京ディズニーリゾートが液状化して施設のほとんどが使えなくなったりと、被害の映像を見た方もたくさんいると思います。
まずは自分の住んでいる家の土壌が、液状化しやすい土地なのか事前に確認しておく必要があります。
これは、海や湖を埋め立てた土地なのかとか、谷や沢を盛り土した土地なのかとか、自分の住む土地が昔はどうなっていたかを調べないといけません。
土地を購入した不動産屋などに問い合わせて分かればよいのですが、そういう土地の価値に関わることは不動産屋は言わない・触れない可能性があるので、自分で調べないといけないかもしれません。
地域の図書館などへ行って、昔の地図を調べたりしないと分からないかもしれないので、少し面倒かもしれません。
ですが、家族の生命のためにも自宅の土地が地震に強いのか弱いのかを、自分自身で調べなければならないと思います。
そして、もし液状化の可能性があると分かったときの対策としては、7〜10mのパイル(木やプラスチック製などの杭。松が良いらしい)をたくさん打ち付けておくと、土壌の強度が増して液状化しにくくなるそうです。
ですが、もうすでに家を建ててしまっている方は、現時点では残念ながら対策の立てようがありません。
(建て直すなど、お金をかければできますが・・・)
今後、安価で有効な解決策が生まれるのを待つしかないようです。
(そういう新しい工法や方法が出てこないか、常にアンテナを張ってチェックしておくことも肝要です)
それでも液状化の可能性が考えられるならば、きちんと地震保険に入り、ライフラインが全部止まる可能性も考えて水とかガスボンベ、電池などの備蓄に気を配るなど、打てる対策は打っておくべきです。


次は土砂災害。
信州のような内陸では海の津波はなくても、山津波(土砂災害)はあります。
強い震動により、比較的脆い山や崖などの土砂崩落は、十分に考えられます。
(地震前の降雨などの天候も影響してきます)
ハザードマップを確認し、自宅近辺の土砂災害の危険度を把握しておきましょう。
(ただしハザードマップはあくまで目安でしかありませんので、ご注意を。自分で自宅周辺を直接見て、イメージを膨らませて最悪のパターンを考えておくべきです。個人的には、自宅建物の近くに山や丘、坂がある所は場合によって土砂災害は起こる、と考えておいた方が良いと考えます)
もし自宅が土砂災害の危険がある場合、、、残念ですが個人でできる対策はあまりないかもしれません。
揺れてから、早ければ十数秒から1、2分で土砂が襲って来るからです。
その間に逃げ切るのは、物理的に不可能に近い。
やれることは少ないのですが、できるだけ頑丈な家を作るとか、地震が起きたらすぐさま逃げる、すぐ逃げられないときはなるべく二階以上の谷側の部屋へ避難する、寝室を二階以上のなるべく谷側の部屋にする、地震保険にはきちんと入る、くらいしかできないかと思います。
(お金があればより安全なところへ引っ越せば良いのですが、そう簡単な話ではないでしょう)
また一度目の強い揺れでは崩れなくても、次の余震で崩れる二次的な災害が起きる可能性があります。
大きい地震があったあと土砂崩れが起きてなくても、なるべく早く避難することも大切でしょう。
他の対策としては、地域の方々と協力して行政に働き掛け、砂防ダムや土砂崩れが起きにくくする工事などの土砂災害対策の充実を図ります。
国や自治体も財政は厳しいし、優先順位の問題もあるので、そう簡単には事は運ばないと思いますが、粘り強く交渉していくしかないでしょう。
(2018年9月6日未明に起きた北海道胆振地方東部地震では、裏手が山になっていた住宅が土砂崩れによって多くの被害が出たことが分かります。やはり山に近い住宅ではいつでも土砂災害を受ける可能性が高いということを認識しておく必要があります。また発生時間が深夜未明だったこともあり、多くの方が就寝中に急に流れ込んできた土砂で被害に遭っているようです。山手に近い家に住んでいる方は、寝室を住宅の2階以上の山側から離れた谷側の部屋にするのが一つの対策だろうと考えられます)

また近年、都市周辺などの山間部の谷や沢を盛り土をして造成した新興住宅地などは、基本的に地盤が弱く、地震の揺れが増幅されたりして地滑りや液状化が起きる可能性があります。
新しい建築基準で建てて建物自体は頑丈でも、地盤が弱く崩れてしまってはどうしようもありません。
家を建てる前ならパイルを打つなど対策が考えられますが、家を建ててしまった後では良い対策はあまりない無いと言えます。
まずは自分の家の土地が昔はどういう土地だったのか、改めて調べてみる必要はあるでしょう。
そして対策としてもう一つ言えることは、地震保険だけはきちんと入っておくべきだということです。

土砂災害にからんで、土砂による川のせき止め湖の問題があります。
強い地震により山間部で土砂崩れが起き、川をせき止めて一時的にダムを作ってしまう場合があります。
その後川の水が溜まって土砂でできたダムが決壊し、土石流となって下流域を襲う可能性があります。
昨年(2012年)夏、奈良・和歌山にて記録的大雨で山の崩落が相次ぎ、危険なせき止め湖が多数発生したことは記憶に新しいと思います。
同じ事が地震でも起こり得るのです。
通常なら、せき止め湖ができてから決壊に至るには数日かかります。
しかし、余震やさらなる土砂崩れ、大雨など予期せぬことで決壊が早まることも考えられます。
対策としては、いち早く的確な情報が手に入るかが重要です。
テレビ・ラジオはもちろん、自治体や町会、消防団などからの情報に敏感に耳を傾けましょう。
特に川や沢の近くに住んでいる方や、昔に洪水や土石流で流されたとかの記録・言い伝えが残っている地域に住む方は、対策と注意を払っておく必要があると思います。
(記録や言い伝えはとても重要な情報だと思います。過去に災害が起きたところは基本的に同じ災害に遭う確率が高い、と考えるべきです。またその土地や場所の名前や過去の土地名などに災害の名残りの名がついている可能性もあります。そういうことにも注意を払っておくことも大事ではないでしょうか)
危険がわかったらすぐに安全な場所へ避難するようにしましょう。

さらに土砂災害にからんで、ダム崩壊の危険性の話。
地震による激しい揺れにより、ダムや溜め池が決壊し、下流域へ濁流・土石流が押し寄せる危険性があります。
東日本大震災でも、福島県須賀川市の農業用の藤沼ダムが決壊し、下流域へ濁流が押し寄せ、家屋19棟が流され全壊、死者7人行方不明者1人を出しました。
決壊したダムは、戦後間もなく作られた古い基準のものでした。
このダムと同じような作りのダムや溜め池は全国各地に多数あり、政府は今後補強など含め対策に乗り出す予定ではあります。
(2016年の段階ではほんの一部しか手は付けられていないようです)
しかし、次の大地震に間に合うかどうかはわかりません。
個人でできる対策はあまりないのですが、まずは自宅の周辺を含め、自宅よりも高い所にあるダムや溜め池を確認しておきましょう。
自宅近所・周辺の地形や高低差を頭に入れて、もしも決壊したらどこをどんな感じで水が流れていくかイメージしておき、避難する際に水が来そうなルートを選ばないとかの目安にしておくことも重要です。
しかし、自宅のすぐ近くの溜め池が決壊したら、残念ですが逃げている時間はあまりないと思います。
早ければ数秒から1、2分で水が襲ってきます。
土砂災害と同じように、なるべく頑丈な家を建てる、地震後水が来なさそうな高いところへ素早く逃げる、逃げられないときは家の二階以上の部屋に避難する、地震保険に入る、といった手が考えられます。
また地震の後、数日経ってから天候や余震等がきっかけで決壊することも十分考えられます。
地震後は情報収集をこまめにして、危険が分かったらなるべく早く安全な場所へ避難しておくのも大切です。

それから、コンクリート製などの巨大ダムですが、こちらが大地震で決壊するかどうかは専門家によって意見が違います。
世界的に見ると地震の揺れによる大型ダム決壊・崩壊の事例は、ほとんど無いそうです。
決壊の可能性は低いとは思いますが、でも絶対に無いとは言い切れません。
こればっかりは対策の立てようがないかも、、。
的確に情報収集し、異変が分かったときには素早く避難する、くらいしかないと思います。

ただし、ダムの決壊はなくても、ダムの水が溢れることがあります。
地震により土砂崩落が起きて大量の土砂がダム湖へ流れ込み、ダムの水が大量に溢れて下流域へ濁流が襲うというものです。
特にダムが満水に近いとき、この被害が起こりやすいといえます。(地震でなくても大雨が原因でも起こります)
これも残念ながら個人では防ぎようがありません。
大型ダムの下流域にお住まいの方は、こういうこともあるということを頭に入れておき、的確な情報収集と判断力が必要…くらいしか考えられません。


次は家屋と建物への被害です。
東日本大震災では、最大震度7と揺れの強さは大きかったわりに、家屋の倒壊などの被害があまり多くはありませんでした。
実は家屋の倒壊を引き起こすのは、揺れの強さそのもの(専門的に言うとモーメント。加速度)も関係しますが、最も影響があるのが揺れの周期、すなわち揺れ方によるところが大きいと言われています。
前に書いたとおり、東日本大震災では実に2分以上にわたって断層がずれました。
その揺れの周期はかなり長く、イメージとしては、「ぐうぅ~~らあぁ~ぐうぅ~~らあぁ~」というような周期だったのです。
(あくまでイメージです汗。実際は複雑に連動してずれてるので、短い周期の揺れも混じった複雑な揺れ方をしています)
こういった長周期の地震動では、日本に多い低層の木造家屋・建物には、被害が出にくいのです。
日本の家屋にいちばん被害を与えやすい周期は1〜2秒とされ(キラーパルスといわれます)、イメージでいうと「ぐーらぐーらぐーら」という感じです。(これもあくまでイメージです…)
この短い周期の震度6近くに相当する強い揺れ(加速度)で3秒以上の揺れがくると、耐震の十分でない建物はほとんど倒壊すると思われます。
揺れがそれほど強くなくても、上のキラーパルスの周期に近い揺れがあると、揺れに弱い古い家屋には倒壊などの被害が出ることもあります。
逆に長い周期の震動は、高層ビルなどの高い建物に大きな被害を与える可能性があります。
震災の映像で、東京の高層ビルがゆ〜らゆ〜らと揺れている映像を見た方も、多いと思います。
あのように超高層ビルでは、地上から高いところでその振れ幅が増幅されて、大きく揺れてしまうのです。
高層ビルの多くは、実はこの手の長周期震動について考慮されて作られていません。
実際どの程度の長周期震動に耐えられるのか、よく分かっていないのです。
また長周期表面波といって、長い周期の震動はあまり揺れが弱まらずに、地面に沿うような形で遠くまで届くという性質もあります。
実際に、東日本大震災では震源からかなり遠い大阪の高層ビルでも、この長周期表面波が観測されています。
さらには地球の反対側、南米までその揺れを観測したそうです。

それから、海溝型地震のような長い時間で断層がずれる場合には、巨大津波が発生しやすくなります。
イメージでいうと、ぐうぅぅ〜っとゆっくり大きく断層がずれることにより、海水全体が大きくゆっくりとぐうぅぅ〜っとうねるように波打つので、巨大な津波になりやすいのです。

そして、1〜2秒の短い揺れの周期の、家屋に甚大な被害を与えるようなキラーパルスが起きる地震は、海溝型地震よりも直下型地震で起こりやすい、といえます。
このように、地震は揺れの強さ(加速度)そのものも重要だけれど、揺れの周期と揺れた時間によっても、被害に差が出るということに理解が必要です。


家屋の被害への対策は、家屋・建物の耐震化しかありません。
現在の建築基準、特に阪神淡路大震災のあと改正された建築基準で建てた1996年以降の建物は、かなり耐震強度が強くなっています。
逆にそれ以前の建物は、地震によっては倒壊の恐れがある、ということです。
しかし、建て替えや耐震化にはどうしてもお金がかかってしまうことです。
お金がある方は自宅をしっかり耐震化し地震対策をとることができても、お金が無い方は耐震化をすることができずに地震で倒れるかもしれない家に住み続けなければなりません。
災害は弱者を容赦なく襲うものであり、社会的・金銭的・知的身体的に不利な人ほど古くて地震に弱い家屋に住まなくてはならず、結果弱者が選択的に被害に遭います。
この弱者を地震からどう守り救済するかは、今後の地震対策の重要課題の一つであるといえます。
(しかしながら、2016年4月に起きた熊本地震では、震度6を超える強烈な揺れが数回襲って来るという地震が起き、1996年以降の建築基準で建てられた建物でも1回目は無事でも2回目以降で倒壊してしまった、という事例がありました。1996年以降の建築基準でも安心はできないという結果になってしまいました。今後、建築基準等は変わっていく可能性はありますが、それでも耐震強度を上げておけば初めの1回は倒壊せずに家族を守ってくれると言えます。耐震化については余裕があるならなるべくやっておくべきです。また自宅の耐震化をしていたとしても安心せず、本震後の余震等で震度5以上の大きな地震が続く可能性があると情報があった時は、状況により早めの非難を検討する必要があります)

(つづく)

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