原発と地震を考えてみる

松宮 湊人

2013年04月08日 01:23

前回ちょっと触れました、原子力発電所と地震について考えてみたいと思います。


まず活断層について。
原発を造るにあたっては、立地周辺の活断層を調べて、将来地震が起きるリスクを調べてから建設地を決めています。
しかし前の記事でも述べましたが、活断層には周期性があるか分かっていません。
仮に、もしあったとしても1000年かそれ以上と言われているため、記録の残る1300年程度の日本の歴史では、その周期を調べて特定させることができない、つまりは周期性があるのかどうかも正確には分からないのです。
また、活断層は目に見える比較的地表に近いものしか確認できず、地下深くや海底、火山灰や泥などが厚くかぶっている所では断層が見えないので、活断層は無いとされています。
そして近年は、その活断層が無いとされていたところ、日本の歴史の中で地震が起きたことが無いといわれる場所で、次々と大きな地震が続いているのです。

また、活断層の長さで将来起こりうる地震の大きさが予想されたりしています。
長い断層ほど大きな地震になりやすい、という一つの研究結果があるからです。
それを元にして、これまで原発建設予定地周辺の活断層の長さを調べ、大きな地震が起きるリスクを考慮して、その建設地を決めていました。
しかしながら、これに異論を唱える地震学者も数多くいます。
確かに断層が長ければ長いほど、地震の規模が大きくなる傾向は見られます。
しかし、その長さと揺れの強さの関連性にはかなりの幅があり、断層が短くても大きな地震が起きる場合も多々あるのです。
断層の長さだけで、地震の規模を推し量るのは、疑問が大きすぎます。
実際、多くの原発のすぐ近くには、短い活断層が結構たくさんあります。
短いから平気、とされていますが、決してそうとは言い切れないのです。

上のように、活断層を調べて原発の立地を慎重に選んだとしても、結局のところ原発直下の地震のリスクは、避けられないのです。
結論からいえば、日本では直下型地震がいつどこで起きても、おかしくありません。
となると、私たちがどうしても日本で原発を使うのならば、耐震性を十分に高めて原発直下の地震がもし起きたとしても、原発施設が絶対に壊れたり損傷しない物を造るしかないのです。



ところが、そう簡単な話ではないようです。
福島第一原発事故では、津波によって発電所内の電源がすべて失われ、原子炉の冷却が出来なくなってメルトダウンが起きた、とされています。
しかし、常に一つの疑念がつきまとっています。
それは、実は地震の揺れそのもので、原発の重要施設に被害が出ていたのではないか?という疑念です。
少し前に、国の事故調査委員会が、昨年地震による原発施設への被害調査のために原発建屋への立ち入り調査を東電に依頼したとき、実際は建屋内は明るかったのに、中が真っ暗で危険だからなどと嘘の事実を伝えて東電社員が立ち入りを諦めるようにしていた、という事が分かり問題になっていました。
どうも、電力会社は福島第一原発事故の原因を、すべて津波のせいにして済ませたいんだな、と何となく見えてきます。
まあ、原発建屋とその施設は地震の揺れには絶対に耐えられると、以前から電力会社は豪語してきましたから、できればその辺はうやむやにしとくか後回しにしたいんでしょう。
しかし、最新の地震観測データと地震研究により、やはり原発は地震に十分耐えられないらしいことが分かってきています。


原子力発電所を造るときの設計基準の耐震指針(06年より前の旧基準、現在さらに新しい基準を策定中)では、設計用最強地震動として最大300〜450ガル、設計用限界地震動として最大450〜600ガルとなっていました。
設計用最強地震動とは将来起こりうる最強の地震、設計用限界地震動とはおよそ現実的でない限界的な地震と説明されています。
つまり、これ以上の揺れの強さは想定されていませんでした。


ガル(Gal)は加速度の単位。ガリレオ・ガリレイにちなむ。1ガルは、1秒(s)に1センチメートル毎秒(cm/s)の加速度(物体を動かそうとする力、モーメント)と定義される。国際規格のメートル毎秒毎秒にすると、
100 Gal = 1 m/s/s
となります。


それまでの地震研究では、重力加速度の約980ガルを超えるような揺れはないだろうと考えられていました。
重力加速度を超えるということは、置いてあるあらゆる物が地震で飛び上がることを意味します。(揺れ方にもよります)
家に置いてあるタンスやテレビ、走っている車やバス、重たい巨大な岩まで、置いてある、地球にのっているだけの物は地震で飛び跳ねるのです。
さすがにそんな地震は起こらないはずだと、地震学者の間でも長く考えられていました。

一方、95年阪神淡路大震災以降、正確な地震動を測るため、新しい地震計が配備されてきました。
強震計といって絶対に振り切れない地震計です。
その新しい地震計により、驚愕の事実がわかります。

03年宮城県北部地震では2037ガル、04年新潟県中越地震では2516ガル、07年新潟県中越沖地震で1019ガル、07年能登半島地震では1304ガルを観測しました。
さらに、08年岩手宮城内陸地震では世界最大の加速度を記録。
岩手県一関市厳美町祭畤(げんびちょうまつるべ)にて、4022ガル(!)を観測しました。
直下型地震の震源に近い場所では、揺れの加速度が重力加速度を簡単に超えていたことが分かってきたのです。

となると、これまでに造られた多くの原発は、この大きな加速度を想定して建てられていないことになります。
耐震指針である「およそ現実的でない地震」が、実は普通に起きている地震だったのです。
ひとたび原発直下地震が起きれば、想定していた原発耐震指針の最大値より、実に2倍以上の揺れの地震が起こる可能性がある訳です。

政府がこの事実を受け、重い腰をあげて耐震指針の改訂をし、新しい指針が施行されたのは2006年。
その指針に基づき耐震性の検証が進められていましたが、日本にあるすべての原発の検証が済んだわけではありません。
また耐震性の検証といっても原発施設全体を検証するのではなく、重要な機器と施設だけでした。
はっきり言えば、検証は不十分だと言わざるを得ません。

福島第一原発事故を受けて、今後原子力規制庁が耐震についての新しい規制基準を制定してくるでしょう。
その内容をよく見ていく必要はあると思います。

そして私が考えるには、旧基準で造られた原発がもし今後再稼働するならば、すべてどこかしら地震に弱い部分を持ちつつ稼働しているといえます。
福島第一原発の1号機では、津波云々よりも地震自体の揺れで、非常用緊急冷却システムの重要な配管などが破損していた可能性は、高いと考えられます。
だとしたら、今日本にある原発は、地震に対して十分な安全性を確保できていないのです。
何かしらに不安を抱えつつ原発を稼働することは、もうあってはならないと考えます。



結局の所、原発について私の結論は、東日本大震災より前に造られた原発は稼働するべきではない、ということです。
どうしても原発を稼働したいならば、古い基準より耐震に考慮した2006年以降に建てられた原発だけ稼働する。
またもともとの耐用年数である三十年を超えたものは、速やかに停止し廃炉をすべきでしょう。
でなければ、福島第一原発と同じようなことが、十分起こり得るのです。
そこの所を、わたしたち日本人は肝に銘じなければならないのです。



安倍内閣は、じわりとそして確実に原発再稼働への道を進めています。
なぜなら、原発を動かさなければ電気料が高騰し、安倍内閣最大の目的である日本経済回復の妨げになる、と考えているからです。
それを受けて、本来独立性を保って事に充たるはずの原子力規制委員会が、若干ながら再稼働やむなしの雰囲気が出てきて、規制基準強化の手も緩んできているように感じます。
しかし、経済の問題と原発の安全性の問題は、別の話です。
このまま経済問題に絡めて安全性がうやむやのまま原発を再稼働したら、わたしたち日本人はあの悲惨な事故から何も学ばなかった、ということになります。
福島の避難を余儀なくされている人々に、顔向けできますか?

そして、わたしたち日本人は、危険なものを原発立地地域の人々に押しつけながら、のうのうとその電気を使い豊かな生活を送ってきました。
今後の原発をどうするか?
これは、わたしたち日本人みんなの問題です。
ぜひ、もう一度考えをめぐらせて、真剣に考えてみてください。
そして、政府がうやむやのまま見切り発車で原発再稼働とならないよう、しっかりと見守っていくのが、私たち国民の大事な仕事の一つなのだと思います。
m(_ _)m

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